入院給付金をいくらにするか
入院給付金は、ほぼすべての医療保険の主契約に組み込まれています。多くのがん保険でも、主契約の一機能として、あるいは特約として提供されています。
保険に加入するにあたって、入院給付金に関して判断しなければならないことは複数あります。日額とか、入院1回あたりの保障日数などです。
このページでは、入院給付金の必要性や、保障内容の決め方について、ご案内します。
入院給付金は、ほぼすべての医療保険の主契約に組み込まれています。多くのがん保険でも、主契約の一機能として、あるいは特約として提供されています。
保険に加入するにあたって、入院給付金に関して判断しなければならないことは複数あります。日額とか、入院1回あたりの保障日数などです。
このページでは、入院給付金の必要性や、保障内容の決め方について、ご案内します。
がんは通院でも治療する病気ですが、治療費の準備をするなら、まずは入院の方に目を向けなければなりません。
短期間にまとまった出費になるのは入院です。
入院費用の準備を目的とした、保険の給付金には、以下のようなものがあります。
手術給付金は、そもそもは入院のための給付金ではありません。しかし、手術は入院を伴う可能性が高いので、実質的には入院の原資になります。
上の3つの給付金のうち、下の2つは一時金で、かつ金額は少額です。入院や手術の準備金という性格が強いです。
入院費用の全てあるいは大半を保険でカバーするなら、柱になるのは入院給付金です。
入院給付金の仕組みは、わりと単純です。
仕組みは単純ですが、加入するときに決めなければならないことが複数あり、しかも適切に判断するのは難しいです。
判断が必要なのは、次の点です。
3つ目の短期入院については、重要度は他の2つより劣ります。とは言え、短期入院に手厚い保険商品が増えつつあるので、迷いやすいポイントではあります。
これらの3点の決め方について、以下で順にご説明します。
がんの入院費用を準備するなら、治療の種類やだいたいの費用、または健康保険など公的医療保険について、ある程度正確に理解する必要があります。
そこで、お金に関係する点に絞って、やや踏み込んで説明します。
健康保険など公的医療保険の中に、高額療養費制度があります。公的医療保険に入っていれば、誰でも利用できる制度です。
がんを始めとして、重い病気で入院するとなったら、頼りになる制度です。入院費用の準備を検討する上で、この制度の知識は不可欠です。
ご存知なければ、高額療養費制度の使い方をご覧ください。
ごくごく簡単にまとめると、高額療養費制度を利用すると、1ヶ月あたりの医療費負担に、上限額が設定されます。どんなに高額な治療(ただし、保険が適用される治療)を受けても、上限額を超えて負担することはありません。
そして、その上限額は、年齢・所得によって決まります。
厚生労働省『医療給付実態調査』(平成27年)によると、がんの1入院あたりの入院日数と医療費(自己負担ではなく実費)は下のようになっています。
医療費はそれなりの値段です。ただし、入院日数は1ヶ月以内に収まります。そこまで長期という印象はありません。
以下では、20日の入院、医療費実費107万6千円、という設定で試算します。
高額療養費制度は、70歳を境に、仕組みが異なっています。それに合わせて、70歳未満と70歳以上に分けて試算しました。
被保険者の所得によって、5段階に分けられています。赤い数値が、医療費の自己負担分の総額です。
標準報酬月額 | 自己負担の見込み |
---|---|
報酬月額 | |
83万以上 | 254,940円 |
81万以上 | |
53~79万 | 172,580円 |
51.5万~81万未満 | |
28~50万 | 88,190円 |
27~51.5万未満 | |
26万以下 | 57,600 |
27万未満 | |
市区町村民税の非課税者等 | 35,400 |
所得によって、自己負担額に大きな開きがあります。
被保険者の所得によって、4段階に分けられています。
現役並み所得者 (標準報酬月額28万以上で高齢受給者証の負担割合が3割) |
88,190円 |
---|---|
一般所得者 | 57,600円 |
市区町村民税の非課税者等 | 24,600円 |
所得(=収入-経費)がない人 | 15,000円 |
実際にかかる医療費は107万6千円なので、高額療養費制度のおかげで、わたしたちの負担は、かなり軽減されます。
入院中の食費(=入院時食事療養費)は、上の自己負担とは別に算出されます。こちらも、負担額は年齢・所得によって区分されますが、ずっと単純です。
下表は、1食あたりの料金と、20日分(1日3食として)食費総額をまとめたものです。
区分 | 1食分 | 20日分 | |
---|---|---|---|
一般的な世帯の負担額 | 460円 | 27,600円 | |
住民税非課税の世帯 | 標準的な負担額 | 210円 | 12,600円 |
過去1年間に90日超入院 | 160円 | 9,600円 | |
70歳以上の低所得者 | 100円 | 6,000円 |
医療費の自己負担額に、この食費(表の赤い数値)をプラスした合計が、最低限かがる費用です。
たとえば、70歳未満の平均的な所得の人なら、
医療費88,190円 + 食費27,600円 = 115,790円
になります。
医療費や食費の他に、交通費、日用品代、衣料代、通信費、図書代、テレビ・洗濯機の使用料などがかかります。
これらをまとめて入院雑費などと総称されます。
入院雑費は、人によってかなり差が出そうです。とは言え、入院にかかる費用を想定するのに、何らかの算定基準がほしいです。
裁判所では、入院1日あたりの雑費を、一律に1,500円で計算するそうです。
この金額を信用するなら、がんで20日入院したときの入院雑費は30,000円です。意外と大きな金額です。
入院雑費を含めて、70歳未満の平均的な所得の人の入院費用を計算すると、
医療費88,190円 + 食費27,600円 + 雑費30,000円 = 145,790円
になります。
がんの医療費は実費で107万円ほどですが、高額療養費制度のおかげで、わたしたちの自己負担額はけっこう安くなっています。
ちょっと安心されたかもしれません。しかし、上表の金額は、入院1回分だけの費用です。入院前後の通院費用を含んでいません。
また、この病気は、転移・再発による治療再開のリスクが大きいです。
再び入院するとか、通院で放射線治療や抗がん剤治療を受けることになるかもしれません。
治療費の総額としては、がんの治療にかかる費用などを参考に、余裕のある準備をしてください。
とは言え、このページのテーマは入院給付金なので、これに絞って説明を進めます。
入院給付金の日額は、用意された選択肢の中から、加入者が選べます。5,000円または10,000円のどちらか、というのが多いです。
商品によっては、15,000円とか20,000円の選択肢もあります。
上でご案内した、高額療養費制度を利用したときの自己負担、入院中の食費、入院雑費をもとに、20日入院したときの、1日あたりの費用を試算して、下表にまとめました。
高額療養費を前提としているので、この制度と同じ区分けで、金額を算出しました。
70 歳 未 満 |
標準報酬月額 | 1日あたり |
---|---|---|
報酬月額 | ||
83万以上 | 15,627円 | |
81万以上 | ||
53~79万 | 11,509円 | |
51.5万~81万未満 | ||
28~50万 | 7,290円 | |
27~51.5万未満 | ||
26万以下 | 5,760円 | |
27万未満 | ||
市区町村民税の非課税者等 | 4,650円 | |
70 歳 以 上 |
現役並み所得者 | 7,290円 |
一般所得者 | 5,760円 | |
市区町村民税の非課税者等 | 4,110円 | |
所得(=収入-経費)がない人 | 3,630円 |
入院給付金で全額をまかなうなら、日額は赤い数字より大きな金額に設定しましょう。
ただし、この試算は国民平均に基づいています。もっと増える危険があります。できるだけ金額に余裕をもたせたいです。
10,000円を超える日額を指定できる商品は、数が限られるので、ご注意ください。
医療保険やがん保険などでは、入院給付金以外にも、給付金があります。組み合わせる給付金によっては、入院給付金日額を下げることができます。
入院給付金の日額は、保険料に大きく影響します。必要なければ下げたいです。
医療保険にしろ、がん保険にしろ、主契約(必須の保障)の中に、入院給付金以外の給付金が組み込まれています。
たとえば医療保険なら、ほとんどの商品に主契約に、手術給付金が組み込まれています。
商品によっては、手術給付金が20万円とか40万円とか出るものもあります。これなら、入院給付金が少なくても、入院費用をまかなえそうです。
しかし、たとえば抗がん剤治療は手術ではないので、そのための入院のときに手術給付金は出ません。
というように、給付金によって支払われる条件があるので、やみくもに入院給付金を少なくするのは危険です。
入院給付金と組み合わせる給付金が、がん診断給付金か入院一時金なら、入院給付金の日額を安心して下げられます。
この2つの給付金は、がんで入院するときには、必ず出るからです。
入院給付金は、退院後にお金が出ます。一方、診断給付金や入院一時金なら、入院前や入院中にお金を受け取ることが可能です。
給付金を組み合わせるメリットはあります。
診断給付金についての詳細は・・・
医療保険の入院給付金は、がん以外の原因による入院でも使います。よって、給付金の金額を決めるときに、がん以外のことも気になります。
しかし、高額療養費制度を利用する限り、月単位で自己負担額の上限が決まるので、がん以外の病気・ケガで入院しても、わたしたちの負担額が大幅にずれることはありません。
というわけで、
がんを基準に、医療保険の入院給付金日額を決めても、差し支えありません。
上表によると、所得が平均かそれより多い世帯は、70歳未満のときは入院給付金日額10,000円以上ほしいです。
一方、70歳以上になると、日額5,000〜8,000円あれば、何とかなりそうです。
ということは、加入する70歳未満のときは日額10,000円以上にして、70歳になる頃に保険会社に手続きして、10,000円未満に減額するのは、実際的かもしれません。
入院給付金日額を下げると、保険料も目に見えて下がります。保険料の終身払込を選んだ人は、その後の保険料負担が軽くなります。
逆に言うと、70歳までに保険料の払込を終えている場合は、減額のメリットは乏しいです。ただ、商品によっては、減額することで、いくらかお金が保険会社から戻ってきます。
日額を増やす手続きは面倒ですが、減額なら書類の手続きだけで簡単・スピーディーです。
医療保険やがん保険の入院給付金には、日数制限が設けられています。入院1回あたりの日数制限と、通算の日数制限です。
このうち、通算の日数制限は、ほとんどの保険商品が1,000日くらいなので、心配する必要はなさそうです。
一方、気になるのが、入院1回あたりの日数制限です。
ほとんどの入院給付金の日数制限は、60日までというのが主流になっています。
そして、加入者の希望により、120日とか、180日とか、より長く設定できるようになっています(設定できる日数は、商品によって異なります)。
しかし、それでは不十分ということなのか、ほとんどの商品で、がん入院の保障日数を無制限に延長する特約が提供されています。中には、主契約にこの機能を取り込んでいる商品も複数あります。
ところが、上でご案内したように、厚生労働省の統計データによるがんの平均入院日数は、20.82日です。
念のために、主ながんの入院日数別の患者の割合を、厚生労働省『患者調査』(平成26年)で調べました。
子宮がん以外は、60日までの保障で、100%近くまでカバーできます。
子宮がんに限っては、120日までの保障の方が安心かもしれません。
いずれにしても、がんのための入院給付金の保障日数は、標準の設定である60日までで、十分に安心できそうです。
がん保険の入院給付金なら、がんだけを想定して判断できます。しかし、医療保険の入院給付金は、そうはいきません。
厚生労働省『患者調査』(平成26年)によると、入院1回あたりのがんの入院日数は19.9日ですが、すべての病気・ケガの入院日数は31.9日です。つまり・・・
医療保険の、入院給付金の保障日数を決めるにあたって、がんを基準にできません。
もっとも、すべての病気・ケガの入院日数は31.9日なので、“60日まで”の入院保障でも、たいていはカバーできそうです。
ただ、病気を個別に調べると、入院が長期化しやすい病名がちらほら見つかります。患者数が多い病気としては、たとえば以下があります(カッコの数字が平均入院日数)。
必要なら保険の専門家に相談するなどして、納得して選んでください。
近年、短期入院の保障を強化する入院給付金が増えつつあります。
短期入院の保障を強化する仕組みとは、5日以内の入院で一律に5日分の入院給付金が出るとか、10日以内の入院で一律に10日分の入院給付金が出る、というものです。
入院するにあたって準備するものの中には、入院期間の長短に関係しないものがあります。
たとえば、入院のためにパジャマを新調したら、その費用は入院の期間には比例しません。
というように、入院期間が半分になっても、それにかかる費用が半減するとは限りません。
一方、保険の入院給付金は、きっちり入院日数分しか出ません。そのため、短期の入院では、入院給付金で費用をまかないきれない危険があります。
短期入院の保障が重視される背景には、入院期間の短縮化という時代の流れがあります。
特に、がんの短縮化は急速です。
下のグラフは、厚生労働省『患者調査』(平成26年)をもとに、がんによる入院と入院全体の、平均在院日数の推移を表しています。
入院全体の在院日数も短くなっていますが、がんの入院の短縮化は、それよりずっと速いペースで進んでいます。
入院日数が短くなって、入院費用も同じように安くなっていればよいのですが、現実は違います。
下図は、厚生労働省『医療給付金実態調査』の過去5回分をもとに作成した、がんの1入院あたりの医療費の推移です。
26年度から27年度にかけては減少していますが、全体としては増加基調です。
保険から出る入院給付金は、入院日数分です。つまり、もらえる入院給付金は年々減少しています。にもかかわらず、入院費用の方は増加しています。
すなわち・・・
入院給付金で、入院費用をまかなえない危険が、年々高まっています。
そして、特に短期入院で、その危険は大きくなっています。
主ながんの、短期入院の割合を調べました。
と言っても、何日以内が短期なのか、はっきりとしたルールはありません。
現在販売されている商品を見渡すと、5日以内とするものと、10日以内とするものがあります。
そこで、5日以内、10日以内、10日超の3つの割合を調べて、グラフにまとめました。
がんによって差はあるものの、少なくとも4割以上が10日以内に収まっています。
乳がんでは、7割近くが10日以内に収まっています。
がんに関しては、短期入院強化の恩恵を受ける可能性は高そうです。
ただし、短期入院の保障を厚くすると、保険料はそれだけ上がります。
もともと短期入院は、入院費用が大きくなりにくいわけで、保険から出るお金が足りなくても、預貯金等で穴埋め出る可能性は高いです。
保険料を上げてまで短期入院に対策するか!?という判断になります。
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